低体温症勉強会のレジュメ

1017日 19時より労山会館にて出席者約50

講師: 金田正樹医師(凍傷治療の第一人者で山屋でもある)

内容: 低体温症の原理及び対策(トムラウシ遭難事故の検証を基に展開)

低体温症(Hypothermia

定義:体温(中心体温)が35℃以下に下がった場合

低体温症に対する認識(今までの常識)を変える事が重要

1、 今までの山岳遭難事故で死亡原因とされていた「疲労凍死」は,ほとんどの場
 合が低体温症による遭難死亡事故と言える。

2、 「乾性寒冷」より「湿性寒冷」の方が発症しやすい。乾いて極寒の冬山より雨
  の高山の方が危ない。(防寒着の準備がそもそも違う)濡れと風が一番の条件

3、 特に中高年は体温の変化に鈍感な為。気が付いた時点では手遅れになり易い。
  体表面の血管が寒さにより収縮する事により体の中心温度の低下を防ぐ。中高
  年はこの反応が遅い為、中心温度の低下に気が付かない。

4、 ゴアテックスの雨具は防寒具ではない。

5、 低体温症はまず頭脳の働きを悪くする事が初動(つまり本人が低体温症となっ
  た自覚が無い)強風下の疲れは低体温症の始まりかもしれない。

6、 悪環境下での行動中、しゃりばてが低体温症の引き金になる事もある(逆に言
  えば高カロリー行動食は頻繁に取る事が重要)

7、 10℃で雨、霧雨、湿潤な雪で風速10m/secでは低体温症を発症しやすい。行動
  はやめるもしくは避難(ツエルトや這松の下に入って風を防ぐ)

            温度による症状の進行

36℃:寒さを感じ始め、寒気などが起る

35℃:手の細かい動きが出来なく、皮膚感覚が麻痺した様になる。次第に震えが
    始まり、
元気が無くなり歩行スピードが落ちて来る。

34℃:歩行は遅く、口ごもり、意味不明なことや奇声をあげ、表情が無くなり
    眠そうに
する。軽度の錯乱状態になる。

      最悪山ではここまで! 手当を早急に行なう。15分で1℃下がる。


34℃〜32℃:手が使えない、転倒する、意識が薄れる、歩行困難

32℃〜30℃:起立不能、錯乱、震えが止まる、筋肉硬直、意識不明と
        なる

30℃〜28℃:半昏睡状態。瞳孔拡散、筋肉硬直、呼吸数半減、弱脈拍

28℃〜26℃:昏睡、心臓停止

気象条件が変わらなければ34℃限界温度から
わずか1時間ちょっとで死亡に至る

   

防止方法

 

1、 天候判断

10℃で雨や雪で風速が10m/sec以上あればかなりのハイリスクとなる事を承知
しておく。行動中止がベター

2、 行動中上記の気象条件になった場合

樹林帯から風の強い稜線に出ないようにルートを変更する(稜線での遭難が多発)

稜線に出ざるを得ない場合、稜線に出る前に濡れ物を着替え、防寒具を着込む。

行動食を補給し。出しやすい位置に変更しておく。

低体温症は個体差が出る。メンバーの内一人が低体温症を発症した場合その人の手
当をしている間、他の人は待機する事になるが、その場合必ずツエルトなどで固ま
って体温を保持に努める。


休憩し行動を再開した瞬間、一度冷えた血液が、全身を巡り急速に低体温症を引き
起こす。

3、衣服のレイヤードを考える。綿製は避ける、メリノウール等のウール製品を選ぶ

4、体力のある内に風を防ぐ工夫が重要、ビバークポイントを探す、這松の下や岩の

 くぼみ等、風の弱い尾根反対側。

 

低体温症治療方法

1、 体温を上げる

濡れた物を脱がせ、乾いた衣服に着替えさせる。プラティパス(ペットボトル)な
どにお湯を入れ、脇などに挟んで体温を上げる。

 2、テント内等に収容し周りの温度を上げる。

 心温度が下がっている為、急激に体表面温度を上げない。お風呂などに入れると
 復温ショックをおこし、重篤な状態になる。

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